高まる緊張 アメリカはイランと戦争するのか?

 

「イランは実に大きな間違いを犯した!」とトランプ米大統領は2019年6月20日ツイッターに投稿した。翌日に、米無人偵察機が撃墜されたことを受けてトランプは、イランへの軍事攻撃を実行に移す直前まで行ったが、約150人の死者が出る恐れがあると聞かされて予定10分前に撤回したと21日語った。

 

「アメリカ イラ...」の画像検索結果

 

イラン革命防衛隊による米軍ドローンの撃墜について、イラン側は同機がイラン領空を侵犯していたと主張。直ちに軍事対応する「レッドライン」に相当すると述べた。

これに対し米国防総省は、ドローンはイラン沿岸から30キロ以上離れた国際空域を飛行しており、残骸の捜索も公海上で行ったと発表。「イラン領空を侵犯していない米軍機に対するいわれのない攻撃」と糾弾した。

ポンペオ国務長官に言わせれば、直ちにイランへの軍事攻撃に踏み切る最後の一線になるのは、米兵の殺害につながるような何らかの行動があった場合だ。

 

トランプはNBCの番組内で、イランへの軍事攻撃に踏み切るとすればイランが核兵器を手にした時だと主張したが、多くの専門家は、そうした事態に至る可能性を高めているのはトランプ自身の政策だと指摘している。国際原子力機関IAEA)の査察報告書は、つい最近までイランは核合意を遵守していたとの内容で一貫している。

 

トランプ政権は、オバマ前政権下で締結された2015年の核合意から2018年5月に離脱。オバマ前大統領の政策をことごとくひっくり返しているトランプ大統領は、合意が核兵器開発やミサイル開発、テロ支援といったイランの行動を抑制していないとの立場だ。今年4月には、イランの精鋭部隊である革命防衛隊を「外国テロ組織」に指定した。

トランプ大統領によるイランへの圧力強化の狙いは、欠陥だらけとする核合意について、再交渉の席にイランを着かせることだろう。「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプ氏は、アフガニスタンやシリアなどの中東に対する関与を縮小させ、財政やアメリカ軍の負担軽減を進めている。北朝鮮のようにイランがアメリカ本土に到達するような核兵器・ミサイルを持つという直接的な脅威は今のところ存在せず、イランに対する主戦論を展開しているわけではない。

 

 

「トランプの特技は、自分が作った問題を取り繕って、勝利を宣言することだ。だが今週は、そのドラマ演出に聖書的な要素が加わった。まず彼は、イランへの報復作戦を指揮する『復讐に燃える神』のペルソナを演じた。そしてすぐに衣装替えのために舞台裏に身を隠し、『平和の君』のマントをかぶって再登場し、作戦の中止を宣言した」

イスラム体制は政治的にも経済的にも構造がしっかりしていて、近い将来、体制転換が起きるとは思えない。イランの態度にも大きな変化をもたらさないことは明らかで、トランプ政権に果たして戦略というものがあるのかすら疑問だ。

 

「アメリカ イラ...」の画像検索結果

 

アメリカ・イランの過去の経緯

 

2国間に最初にくさびが入ったのは、米CIAが石油利権をめぐってイランでクーデターを起こした53年のこと。それまでの数十年、イランの石油は欧米企業の支配下に置かれ、利益を吸い上げられていた。ところが51年、民主的な選挙によってモサデク政権が誕生すると、モサデク新首相は就任直後にイランの石油産業を国有化して欧米から奪還。すると米英は、すぐさまモサデクを失脚させて米英寄りのパーレビ国王に君主政治を敷かせるべくクーデターを起こした。

しかしこれが、イラン国内のリベラル派と保守派の両方を敵に回し、その後の両国関係に決定的な影響を及ぼすことになる。

保守派は宗教と無関係なパーレビが権力を掌握したことに憤慨し、リベラル派は民主主義が葬り去られたことに落胆。79年には、アメリカの傀儡となったパーレビ政権を打倒しようと国民がイラン革命を起こした。これによって、米外交にとって安定した支柱だったイランが最も不安定な要素に様変わりした。

革命の結果イスラム共和国となったイランは、同様の革命をアラブ諸国に輸出しようとしたほか、アメリカの同盟諸国やそれらの近隣諸国に対するテロに資金を援助するようになった。

 

80年代に入ると、アメリカはイラン・イラク戦争イラク側についた。その後、レバノンイラク、シリアなど米外交が機能していない中東諸国で影響力を増したイランは、この地域における反米勢力の代表格としてシーア派民兵組織のネットワークを強化し、アメリカの意図をくじこうとしている。例えばイランが後押しするイエメンがアメリカの同盟国であるサウジアラビアと代理戦争を繰り広げたりと、中東でイランとアメリカの対立に無関係な国はほとんどないと言っていい。

イランは、2017年に弾道ミサイルの実験に成功。このミサイルは射程2000キロで、複数の弾頭を搭載できる多弾頭型だ。イランとイスラエルとの距離は約1700キロであるため、もしイランが核開発に成功すれば、その時点でイスラエルへ核攻撃が可能となる。また、北朝鮮の長距離弾道ミサイルの技術がイランに流出すれば、イランはワシントンDCを射程に入れて核攻撃を行うことも可能となる。

 

このためトランプ氏は、不完全な核合意を離脱し、未来永劫に渡って核開発ができなくなる状態づくりを急いでいる。

イランの核開発には、イスラエル核武装国として周辺国を圧迫しているという背景がある。そんななか、トランプ氏は親イスラエルの姿勢を加速させている。6月に「世紀のディール」と呼ぶ中東和平案を発表の予定だが、イスラエル寄りの内容になるとも言われている。

 

例えば、現在イスラエルユダヤ人をヨルダン川西岸に入植させて領土を拡張しているが、トランプ政権は「黙認」している。現在ヨルダン川西岸に入植するユダヤ人は40万人。これはパレスチナとの二国家共存の否定であり、それを黙認することは必ずしも中立的とはいえないだろう。

 

イランが核武装すれば、サウジ、エジプトも核武装し、イスラエルが存亡の危機を迎えるのみならず、核拡散の未来がやってくるのは確かだ。しかしイランの非核化に取り組むトランプ政権の「イスラエルびいき」は、また別の禍根を残しかねない。

 

高まる緊張

 

「アメリカ イラ...」の画像検索結果

 

このように緊張が高まった直接の要因は、トランプがイランとの核合意を反故にし、再びイランに制裁を加えたからである。こうした措置はすべて、ヨーロッパの同盟国の希望に反しておこなわれ、ワシントンの外交通の間でも反対の声が上がっていた。

トランプはイラン政府と対話する用意があるとしているが、この政権がイランを交渉のテーブルに座らせることができると見ている専門家はほぼいない。イランの核交渉チームの元スポークスマン、セイエド・ホセイン・ムサビアンは米誌アトランティックに、「トランプは核合意を台無しにしたことで、将来の交渉のチャンスも台無しにした」と語っている。

そして、緊張の炎がまた大きく燃え盛るのは避けられない。

 

「双方が絶対に引かないと決意しているなか、緊張がさらにエスカレートするのを回避するのは難しいだろう。トランプが望んでいる新たな核交渉は、衝突を避ける一つの手段ではあるかもしれない。だがイランは、信用していない政権との交渉に応じるとは考えにくい。ましてや、合意に至る確率はもっと低いだろう」

ドローン撃墜が注目される一方で、イランの支援を受けるイエメンのホーシー派がその前日、サウジアラビアの淡水化施設を攻撃していたことは、さらに深刻な兆候といえる。ここ1カ月ほどで、ホーシー派はサウジの石油パイプラインや国際空港への攻撃を続けてきた。

淡水化施設への攻撃は実害をもたらさなかった。だが、サウジが貴重な水の確保を海水の脱塩施設に大幅に頼っていることを考えると、こうした施設への攻撃は数ある石油施設への一撃よりはるかにダメージが大きい。

今回の淡水化施設攻撃は失敗したが、サウジに心理的影響を与えなかったわけではない。「イラン側は成功するまで攻撃を続けるだろうし、もしも水施設の攻撃に成功すれば、深刻な事態を引き起こすことになるだろう」