日本の財政出動は十分か?現状、財政破綻の懸念はあるのか?

 政府の新型コロナウイルス対策に伴う歳出の膨張により、財政悪化が急激に進んでいる。2020年度の歳出と国債発行額は過去最大を大きく更新。1日の財政制度等審議会財務相の諮問機関)の分科会では、将来世代への負担先送りが加速することへの懸念の声が相次いだ。

 

 分科会は、一連のコロナ対策での巨額の支出に対し、「緊急的なものでやむを得ない」との認識を共有。その上で、コロナ収束後のいっそうの財政再建の必要性を強調した。

 

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 第1次・2次の補正予算策定で、20年度の一般会計歳出は当初予算と合わせ160.3兆円に拡大。過去最大だった19年度(104.7円)の1.5倍に上る。補正の財源は全て国債発行で賄い、今年度の国債発行額は90.2兆円となる。一方、コロナ禍の企業業績悪化などで税収の下方修正は避けられず、さらなる財政指標の悪化は必至だ。

 

 政府は国・地方の基礎的財政収支プライマリーバランス=PB)を25年度に黒字化する財政健全化目標を掲げるが、国のPB赤字額は20年度当初予算段階の9.2兆円から66.1兆円に一気に跳ね上がった。

 

この環境下で積極財政か緊縮財政か?

 

大恐慌下のアメリカではルーズベルト大統領のニューディール政策が有名だが、実はニューディール政策の実施状況は各州によって異なっていた。そのため、州単位で比較することでニューディール政策の効果がわかった。

 

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ニューディール政策に積極的に取り組んだ州(ルイジアナ州)と、消極的だった州(ジョージア州カンザス州など)を比較すると、前者ではその後の公衆衛生状態が長期にわたって改善した。特に伝染性疾患による死亡率、小児死亡率、自殺率などが大幅に改善された。そして最も重要な効果は、公衆衛生・医療への財政支出はその後の景気回復にも大きく寄与したことである。そして景気回復の結果、財政状況も好転した。財政緊縮派がよく口にする「医療・福祉への支出は財政状況を悪化させる」という懸念はあたらなかったのである。

 

同じようにソ連崩壊後に、急速に市場化・民営化を進めた旧ソ連諸国と、漸進的に市場化・民営化を進めた東欧諸国との間の比較ができる。この場合はこの改革のスピードによって、その後の国民の健康にどのような影響があったかが判明した。

端的に言えば、急速かつ徹底した改革を進めたロシアでは、男性の平均寿命が1991年から1994年のわずか3年間で64歳から58歳へと縮んだ。そして死亡した男性の多くが25歳から39歳の若年層であり(通常の災害などでは死亡者は子供と高齢者が中心になる)、彼らの職業はブルーカラーが多く、急速な改革で工場の閉鎖などで失業者に転落した人たちであった。その結果、彼らはアルコールに溺れた。しかもウオッカならまだマシな方で、彼らは非飲料用アルコール(アフターシェーブローションやマウスウォッシュなどに含まれるアルコールを蒸留したもの)にまで手を出していた。このような密造酒は「オーデコロン」と呼ばれ、多くの健康被害を引き起こした。

 

そして急速な改革は経済も破壊した。1990年から1996年にかけて旧ソ連諸国(ロシア以外にもカザフスタンラトビアリトアニアなど)では一人あたりGDPが30%以上も低下した。また、民営化によってそれまでの国有資産を一部の旧エリート層が不当に独占したため貧富の格差が急拡大し、1988年にはわずか2%だった貧困率は1995年には40%に上昇した。「共産主義で最悪なのは、なんと崩壊後だった」という絶望的なジョークが流行ったそうである。

一方、改革を比較的ゆっくり進めた国もあった。ロシアの隣国ベラルーシや、チェコポーランドなどの東欧諸国である。これらの漸進的改革国では貧困率や失業率は安定したまま推移し、時間をかけて制度を整備し、外資を呼び込むことで穏やかに市場経済に移行した。

 

日本で財政破綻は起きるのか?

 

 今はコロナ恐慌に苦しむ消費者や企業救済のために債務膨張には目をつぶるが、コロナ禍が一段落すれば大型の財政支出カットと消費税増税に転じるというデフレ温存シナリオに沿っている。

 

 現在、日本は約1,100兆円もの多額の借金を抱えており、単純計算では、乳幼児から高齢者まで国民一人当たり約900万円弱の借金を抱えていることになります。今日の低金利下でも、この借金の利払いは毎年約10兆円に及んでいる。

 

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 日本は高齢化が進むことで社会保障費が伸び続ける一方、人口が減少しているので経済が停滞し税収が伸びず、結果的に税収に対する社会保障費の割合が伸び続けている状況で、今後はさらに悪化すると考えられている。人口の減少は加速化しGDPの成長を止め、次いでその規模自体を縮小させることになると思われる。GDPは日本が生み出す付加価値の総額であり、「消費+投資+政府支出+(輸出-輸入)」の式で計算する。生産年齢人口の減少は働き手が減るだけでなく、消費の主役も減ることになるので内需が縮小し、企業は国内投資を控えるようになる。「消費+投資+政府支出+(輸出-輸入)」の「消費+投資」が小さくなるので、GDPの成長も規模も小さくなることが予想されるため、中長期では何らかの対策は当然考える必要はある。

 

 尚、 2019年に米国が払った金利の額はGDPの1.8%。これは20年前より小さい値だ。19年の日本の公的債務残高はGDPの240%近いが、この債務が維持できなくなる兆候はほぼなかった。

 

 通貨を自国で発行している国は、中央銀行国債を購入することで金利を抑制できる。各国の中央銀行はここ数週間、この措置を空前の規模で実施している(米連邦準備理事会=FRB=はこの5週間で、20年3月に至る1年間の純発行額を超える国債を購入した)。

 

現在のインフレリスク

 

 今のところインフレのリスクはない。特に原油価格が暴落した影響が大きい。大半の経済学者は、政府がむやみに借金を重ねることよりも、公的債務が積み上がることを不合理に恐れて臆病になりすぎることを懸念する。今の状況で財政支援が不十分だと、経済を縮小の悪循環に突き落としかねない。

 

一般に、主要先進国の政府にクレジット不安は起こりにくいはずだ。会社の売上げがなくなり返済が難しくなる社債と異なり、政府には徴税権があるからだ。政情不安などで中央政府が必ずしも地方を把握できていない国もあるが、主要先進国については、徴税権があるからこそ国債は「リスクフリー」と呼ばれる。

 

 一部の先進国でクレジット不安が起こるのは、徴税の実行に混乱があったり、一時的に政府が資金繰りに失敗する場合で、通常は中央銀行による紙幣発行権が政府と一体である(法的に発券銀行が管理されている)ことから、政府のクレジット問題は起こりにくい。「世界中が借金の山になる」としても、将来、個人や企業が健全に稼いで税金を払うことが期待される限り、主要先進国の債券市場が投資家の投げ売りで急落し、政府の再調達が困難になるシナリオは描きにくい。

 

 さらに、日本では、政府の財政悪化が国民に広く知られており、消費税率の引き上げが比較的簡単に(デフレ的経済にも関わらず)受け入れられる。これらのことなどを含めて総合的に判断すると、日本国債金利が返済不能金利支払い遅延を恐れて急騰する(国債が売られて急落する)可能性は低い。

 

日本の財政出動は十分か?

 

 米国や中国、そして財政規律を重んじてきたドイツですら、コロナショックを受けて積極的な財政出動政策に変化しました。にもかかわらず、日本の財政出動規模は第1次補正予算で約25兆円。米国が300兆円以上、中国も50兆円以上の財政出動を決めているのに比べれば、まだまだ少ないと言わざるをえません。

 

 限りなくゼロに近い国の財政破綻のリスクと、コロナショックで困窮している人や、倒産や廃業をせざるをえない人たちを救うことのどちらが大事か。政治家としてやるべきことの答えは明らかです。予算を小出しにしてケチケチしていては、今、コロナで苦しんでいる人への支援が間に合いません。

 

 今、日本のGDP国内総生産)は約550兆円。それがコロナショックで400兆円以下になるかもしれないとも言われている。民間が支出を控えているなかで、やれることは政府が積極的に支出を増やすことしかありません。よって、積極的な財政出動が必要と思われる。